
レトロ建築を年に300軒以上巡っている「レトロさんぽ」です。
長く愛されてきたレトロ建築には、時代を超えて人を惹きつける魅力がぎゅっと詰まっています。
ステンドグラスや優美な階段、味わい深いタイル、意匠を凝らした天井――。
効率が重視される現代では、なかなか目にすることのない、贅と手間ひまを惜しまないこだわりに出会えることが、何よりの楽しみです。
今回は、そんなレトロ建築のパーツの中でも「床」に特に注目。
東京都庭園美術館を舞台に、足元に広がる意匠や、レトロ建築ならではの細部のこだわりに目を向けながら、その魅力をご紹介します。
もくじ
朝香宮邸として誕生した、アール・デコの邸宅

今回紹介する、東京都庭園美術館は、1933年(昭和8年)に皇族・朝香宮邸として建てられました。
その後は外務大臣公邸や首相公邸、迎賓館としても活用され、現在は美術館として一般に公開されています。
普段は企画展が開催されており、展示作品を鑑賞できますが、期間限定で建物そのものを見学できる機会も設けられています。
そうしたタイミングで訪れると、装飾や素材、空間をじっくり味わえるので、おすすめです。
玄関を彩るタイルとガラスの意匠

まずは、玄関から。
足元には、美しいモザイクタイルが広がり、訪れる人をやさしく迎えてくれます。
このタイルを目にした瞬間、「来てよかった」と思わず感じてしまうほどの存在感です。

モザイクのように、細かな石を一つひとつ並べることで、植物や花を思わせる模様を浮かび上がらせています。
一つひとつの石に、丁寧な仕事ぶりが感じられる玄関です。

玄関のもう一つの見どころが、玄関正面のガラスの壁です。
翼を広げた女性像が描かれており、横から眺めると、立体的に浮かび上がって見えるのが印象的。光の入り方によって、表情が変わる美しさも魅力です。
こちらは、フランスのガラス工芸家・ルネ・ラリックによる作品。
香水瓶やジュエリーなど、繊細で小ぶりな作品のイメージが強いラリックですが、建築の一部として取り入れられた、これほど大きな作品は珍しく、非常に貴重な存在です。
香水塔という、邸宅の静かな主役

中へ進むと、目に留まるのがこちら。「香水塔」と呼ばれるものです。
朝香宮邸として使われていた当時は、上部の照明内部に香水を施し、照明の熱によってほのかに香りを漂わせていたと伝えられています。空間そのものを香りで演出するという、なんとも贅沢な仕掛けです。
天井のドームや、香水塔上部のやわらかなカーブには、1920〜30年代に流行したアール・デコ様式の特徴が現れており、当時のモダンな美意識が感じられます。

この香水塔まわりの床も、個人的にとても好きな場所です。
玄関のタイルが曲線を多用した柔らかな印象だったのに対し、こちらは直線で構成された、すっきりとしたデザインが特徴。
香水塔の床は、直線的な意匠でありながら、パターンを変えることで、変化をもたらしています。
果物と魚が彩る、優雅な食卓



続いて足を進めると、暖炉上の壁画が目を引く食堂へ。
オレンジ色に包まれた温かな空間に、装飾が施された銀色の壁面が映え、華やかさを添えています。

銀色の壁面には、花のモチーフがあしらわれています。
光の当たり方によって陰影が生まれ、立体的に浮かび上がって見えます。


食堂にふさわしく、ランプには果物が、ラジエーター・カバー(暖房器具のカバー)には魚のモチーフがあしらわれています。
空間の用途に合わせた遊び心あるデザインも、見つけた瞬間、思わず頬がゆるんでしまう演出です。

食堂には、庭を見渡せる円形の張り出し窓があり、やわらかな光が差し込みます。
足元に目を向けると、床は寄木細工。色や木目の異なる木材を組み合わせ、パズルのように模様を描いた、美しい床が広がっています。

少しの隙間もなく組み込まれ、まるで最初から一枚の板だったかのような精密さです。
邸宅の中心を飾る大理石の階段


そして、東京都庭園美術館の見どころといえば、この階段ではないでしょうか。
上へと進むだけの空間でありながら、どっしりとした直線的な大理石と、軽やかな花のモチーフが織りなす景色に、思わず胸が高鳴ります。
もはや階段というより、大きな美術作品のよう。その完成度の高さに、何度見ても、新鮮なときめきを与えてくれるスポットです。

細かな部分ではありますが、個人的に好きなのが、階段に敷かれた赤い絨毯の始まりです。
四角く区切ってしまいそうなところを、あえて半円の形にしている点に、設計者のこだわりを感じます。
浴室にも息づくモザイクタイル

一階がゲストを迎えるための空間であるのに対し、二階は家族が過ごすプライベートな空間となっています。
数多くの部屋が並ぶ中で、まず目を引いたのが浴室です。
青緑色の波を思わせる大理石に囲まれた、贅沢な空間。そして何より、当時のまま残されたシャワーや蛇口の存在に、心を惹きつけられます。

浴室にも、玄関や香水塔と同じように、細かなモザイクタイルが緻密に並べられ、美しい模様を描いています。

少し目を凝らしてみると、排水溝に花のようなデザインが施されていることを発見しました!
妃殿下の美意識が息づく居間

続いて訪れたのは、2階にある妃殿下居間。
妃殿下のこだわりが随所に詰まったこのお部屋は、特に柔らかで華やかな空気に包まれた空間です。


特徴的な五つの球状ランプや、ラジエーター・カバーにあしらわれた花のモチーフなど、乙女心をくすぐる意匠が施されています。

ふと目に留まったのが——
ベランダへ出るドアの取っ手。こんな場所にも、さりげなく花のモチーフがあしらわれていました。

そして、円形のベランダに並ぶのが、少しずつ色味の異なる床タイル。
趣あるこのレトロタイルに気づいた瞬間、胸が弾んでしまいました。こちらは、京都の泰山製陶所で作られた「泰山タイル」です。
建物を彩るために生み出され、その美しさと高い技術力から、「美術タイル」とも呼ばれました。
現在も各地のレトロ建築で目にすることができ、当時の美意識の高さを今に伝えています。
市松模様に落ちる光と影


2階のベランダと3階のウィンターガーデンの床は、白と黒の市松模様。
床の黒がアクセントとなり、ほかの部屋に比べ、どこか凛とした、引き締まった印象を受けます。
床には斜めの影が落ち、時間そのものが模様のよう。光と影が織りなす表情に、しばらく足を止めてしまいました。


ウィンターガーデンは、かつて温室として使われていたお部屋です。
ここでは、どんな植物たちが育てられていたのでしょうか。
よく目を凝らしてみると、排水溝や台の下にまで、お揃いの装飾が施されていることを発見。
細部にまでこだわりが行き届いているからこそ、レトロ建築は見れば見るほど楽しく、何度訪れても新しい魅力に出会えるのだと感じました。
旧朝香宮邸で感じるアール・デコの邸宅美

今回は、東京都庭園美術館をご紹介しましたが、いかがだったでしょうか。
アール・デコ様式でまとめられた、すっきりとした品のある邸宅でしたね。
今回ご紹介しきれなかったお部屋も、まだまだたくさん残っています。
部屋ごとに異なるランプや、ラジエーター・カバーのデザインを見比べるのも、大きな楽しみのひとつです。
ぜひ実際に足を運び、ご自身の目で、その魅力を確かめてみてください。
レトロさんぽさんのInstagram
今回ご紹介した東京都庭園美術館の投稿は、レトロさんぽさんのInstagramでもご覧いただけます。
https://www.instagram.com/p/C33YB6dPol5/?img_index=10
レトロさんぽさんのInstagramでは、ほかにも全国各地のレトロ建築を数多く紹介されていますので、ぜひあわせてご覧ください。
https://www.instagram.com/retro_sanpo_/
レトロさんぽ | 堤じゅり
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