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レトロさんぽと巡る 東京都庭園美術館——ときめきは、足元から

床旅

レトロさんぽと巡る 東京都庭園美術館——ときめきは、足元から

2026.04.27 (最終更新日:2026/04/26)

レトロ建築を年に300軒以上巡っている「レトロさんぽ」です。

長く愛されてきたレトロ建築には、時代を超えて人を惹きつける魅力がぎゅっと詰まっています。

ステンドグラスや優美な階段、味わい深いタイル、意匠を凝らした天井――。

効率が重視される現代では、なかなか目にすることのない、贅と手間ひまを惜しまないこだわりに出会えることが、何よりの楽しみです。

今回は、そんなレトロ建築のパーツの中でも「床」に特に注目。

東京都庭園美術館を舞台に、足元に広がる意匠や、レトロ建築ならではの細部のこだわりに目を向けながら、その魅力をご紹介します。

朝香宮邸として誕生した、アール・デコの邸宅

東京都庭園美術館(旧朝香宮邸)の外観。アール・デコ様式の白い邸宅建築とエントランス正面のアーチ。
東京都庭園美術館(旧朝香宮邸)の外観

今回紹介する、東京都庭園美術館は、1933年(昭和8年)に皇族・朝香宮邸として建てられました。

その後は外務大臣公邸や首相公邸、迎賓館としても活用され、現在は美術館として一般に公開されています。

普段は企画展が開催されており、展示作品を鑑賞できますが、期間限定で建物そのものを見学できる機会も設けられています。

そうしたタイミングで訪れると、装飾や素材、空間をじっくり味わえるので、おすすめです。

玄関を彩るタイルとガラスの意匠

東京都庭園美術館の玄関ホール床。植物モチーフを配した円形のモザイクタイルと幾何学模様の縁取り。
玄関ホールのモザイクタイル

まずは、玄関から。
足元には、美しいモザイクタイルが広がり、訪れる人をやさしく迎えてくれます。

このタイルを目にした瞬間、「来てよかった」と思わず感じてしまうほどの存在感です。

東京都庭園美術館の玄関モザイクタイル中央部。花を思わせる円形文様と蔦模様が組み合わされた装飾床。
玄関モザイクタイルの中央文様

モザイクのように、細かな石を一つひとつ並べることで、植物や花を思わせる模様を浮かび上がらせています。

一つひとつの石に、丁寧な仕事ぶりが感じられる玄関です。

東京都庭園美術館の玄関正面にあるルネ・ラリック作のガラスレリーフ。翼を広げた女性像が浮かび上がる装飾壁。
ルネ・ラリックによるガラスレリーフ

玄関のもう一つの見どころが、玄関正面のガラスの壁です。

翼を広げた女性像が描かれており、横から眺めると、立体的に浮かび上がって見えるのが印象的。光の入り方によって、表情が変わる美しさも魅力です。

こちらは、フランスのガラス工芸家・ルネ・ラリックによる作品。

香水瓶やジュエリーなど、繊細で小ぶりな作品のイメージが強いラリックですが、建築の一部として取り入れられた、これほど大きな作品は珍しく、非常に貴重な存在です。

香水塔という、邸宅の静かな主役

東京都庭園美術館の香水塔とホール空間。中央に立つ白い香水塔と幾何学模様の床タイル。
香水塔のあるホール空間

中へ進むと、目に留まるのがこちら。「香水塔」と呼ばれるものです。

朝香宮邸として使われていた当時は、上部の照明内部に香水を施し、照明の熱によってほのかに香りを漂わせていたと伝えられています。空間そのものを香りで演出するという、なんとも贅沢な仕掛けです。

天井のドームや、香水塔上部のやわらかなカーブには、1920〜30年代に流行したアール・デコ様式の特徴が現れており、当時のモダンな美意識が感じられます。

東京都庭園美術館の香水塔周辺の床タイル。市松模様とジグザグ文様を組み合わせた幾何学的デザイン。
香水塔まわりの床タイル

この香水塔まわりの床も、個人的にとても好きな場所です。

玄関のタイルが曲線を多用した柔らかな印象だったのに対し、こちらは直線で構成された、すっきりとしたデザインが特徴。

香水塔の床は、直線的な意匠でありながら、パターンを変えることで、変化をもたらしています。

果物と魚が彩る、優雅な食卓

東京都庭園美術館の食堂内部。円形の張り出し窓と装飾レリーフ壁、アール・デコ様式の照明が並ぶ空間。
食堂の室内空間
東京都庭園美術館の食堂暖炉と壁画。果物や庭園風景を描いた装飾と大理石の暖炉。
食堂の暖炉と壁画
東京都庭園美術館の食堂暖炉正面。黄褐色の大理石暖炉と庭園を描いた装飾壁画。
食堂暖炉の装飾壁画

続いて足を進めると、暖炉上の壁画が目を引く食堂へ。

オレンジ色に包まれた温かな空間に、装飾が施された銀色の壁面が映え、華やかさを添えています。

東京都庭園美術館の食堂装飾壁のレリーフ。花と葉を立体的に表現したアール・デコ様式の装飾。
食堂壁面のレリーフ装飾

銀色の壁面には、花のモチーフがあしらわれています。

光の当たり方によって陰影が生まれ、立体的に浮かび上がって見えます。

東京都庭園美術館の食堂天井照明。果物モチーフを配したアール・デコ様式のガラス装飾照明。
果物モチーフの天井照明
東京都庭園美術館の窓下装飾。魚や貝をモチーフにしたアール・デコ様式の金属レリーフ。
魚と貝の装飾レリーフ

食堂にふさわしく、ランプには果物が、ラジエーター・カバー(暖房器具のカバー)には魚のモチーフがあしらわれています。

空間の用途に合わせた遊び心あるデザインも、見つけた瞬間、思わず頬がゆるんでしまう演出です。

東京都庭園美術館の半円形サンルーム。アール・デコ様式の窓装飾と寄木張りの床。
半円形サンルームと寄木床

食堂には、庭を見渡せる円形の張り出し窓があり、やわらかな光が差し込みます。

足元に目を向けると、床は寄木細工。色や木目の異なる木材を組み合わせ、パズルのように模様を描いた、美しい床が広がっています。

東京都庭園美術館の寄木張り床の意匠。幾何学模様で構成されたアール・デコ様式の木床。
幾何学模様の寄木床

少しの隙間もなく組み込まれ、まるで最初から一枚の板だったかのような精密さです。

邸宅の中心を飾る大理石の階段

東京都庭園美術館の階段室。赤い絨毯の階段と、植物文様の装飾パネルが配されたアール・デコ様式の空間。
階段室の装飾意匠
東京都庭園美術館(旧朝香宮邸)階段室のアール・デコ様式の柱型照明と幾何学装飾
東京都庭園美術館(旧朝香宮邸)の階段室照明

そして、東京都庭園美術館の見どころといえば、この階段ではないでしょうか。

上へと進むだけの空間でありながら、どっしりとした直線的な大理石と、軽やかな花のモチーフが織りなす景色に、思わず胸が高鳴ります。

もはや階段というより、大きな美術作品のよう。その完成度の高さに、何度見ても、新鮮なときめきを与えてくれるスポットです。

東京都庭園美術館(旧朝香宮邸)の階段室にある赤いカーペット敷きの直線階段と白い大理石の踏み面
階段室の赤いカーペット階段

細かな部分ではありますが、個人的に好きなのが、階段に敷かれた赤い絨毯の始まりです。

四角く区切ってしまいそうなところを、あえて半円の形にしている点に、設計者のこだわりを感じます。

浴室にも息づくモザイクタイル

東京都庭園美術館(旧朝香宮邸)の浴室。大理石張りの壁と浴槽、モザイクタイル床、白い洗面台と窓が並ぶ室内
旧朝香宮邸の浴室

一階がゲストを迎えるための空間であるのに対し、二階は家族が過ごすプライベートな空間となっています。

数多くの部屋が並ぶ中で、まず目を引いたのが浴室です。

青緑色の波を思わせる大理石に囲まれた、贅沢な空間。そして何より、当時のまま残されたシャワーや蛇口の存在に、心を惹きつけられます。

旧朝香宮邸の浴室の一角。大理石の腰壁と茶系のモザイクタイル壁、浴槽まわりのディテール
浴室の大理石とモザイクタイルのディテール

浴室にも、玄関や香水塔と同じように、細かなモザイクタイルが緻密に並べられ、美しい模様を描いています。

旧朝香宮邸の浴室床。排水口まわりに配された緑・ベージュ・茶のモザイクタイルと洗面台脚部
浴室床と排水口まわりのモザイク

少し目を凝らしてみると、排水溝に花のようなデザインが施されていることを発見しました!

妃殿下の美意識が息づく居間

旧朝香宮邸の広間。アールを描く天井と丸いペンダント照明、大きな窓と暖炉が配された空間
曲線天井と球体照明が印象的な広間

続いて訪れたのは、2階にある妃殿下居間。

妃殿下のこだわりが随所に詰まったこのお部屋は、特に柔らかで華やかな空気に包まれた空間です。

旧朝香宮邸の天井装飾と球体ガラスのペンダント照明。幾何学模様のレリーフと柔らかな光が広がる空間
幾何学模様の天井装飾から吊り下がる、乳白色の球体照明
旧朝香宮邸の室内に設えられた装飾金物のパネル。花と曲線模様が格子状に配されたアール・デコ意匠
花を中心に曲線が広がる、繊細なアイアン装飾

特徴的な五つの球状ランプや、ラジエーター・カバーにあしらわれた花のモチーフなど、乙女心をくすぐる意匠が施されています。

旧朝香宮邸の窓辺に取り付けられた装飾金物のドアハンドル。植物文様が彫り込まれたアール・デコ様式の意匠
手をかけるたびに目に入る、繊細なレリーフ

ふと目に留まったのが——

ベランダへ出るドアの取っ手。こんな場所にも、さりげなく花のモチーフがあしらわれていました。

旧朝香宮邸テラスの半円形床。イエローを基調に、ブルーやパープルのタイルを組み合わせたモザイク模様
やわらかな黄色をベースに、淡いブルーや紫が差し色となったテラスのモザイク床

そして、円形のベランダに並ぶのが、少しずつ色味の異なる床タイル。

趣あるこのレトロタイルに気づいた瞬間、胸が弾んでしまいました。こちらは、京都の泰山製陶所で作られた「泰山タイル」です。

建物を彩るために生み出され、その美しさと高い技術力から、「美術タイル」とも呼ばれました。

現在も各地のレトロ建築で目にすることができ、当時の美意識の高さを今に伝えています。

市松模様に落ちる光と影

旧朝香宮邸の回廊。白壁と大きな窓に沿って黒白の市松模様タイルが続く床と三角形のペンダント照明
回廊の市松模様タイル
旧朝香宮邸の室内。大きな窓から庭園を望む空間に、黒白の市松模様タイル床が広がる
ウィンターガーデンの市松模様タイル

2階のベランダと3階のウィンターガーデンの床は、白と黒の市松模様。

床の黒がアクセントとなり、ほかの部屋に比べ、どこか凛とした、引き締まった印象を受けます。

床には斜めの影が落ち、時間そのものが模様のよう。光と影が織りなす表情に、しばらく足を止めてしまいました。

旧朝香宮邸の市松模様タイル床に設けられた八角形の装飾排水口
市松タイルの交点に、八角形の金具
旧朝香宮邸の窓辺に設けられた石製カウンターと、幾何学模様のアイアン製ブラケット
窓辺の石カウンターを支える、円と直線が組み合わさったアイアン装飾

ウィンターガーデンは、かつて温室として使われていたお部屋です。

ここでは、どんな植物たちが育てられていたのでしょうか。

よく目を凝らしてみると、排水溝や台の下にまで、お揃いの装飾が施されていることを発見。

細部にまでこだわりが行き届いているからこそ、レトロ建築は見れば見るほど楽しく、何度訪れても新しい魅力に出会えるのだと感じました。

旧朝香宮邸で感じるアール・デコの邸宅美

旧朝香宮邸の長い廊下空間。シャンデリアが連なる天井装飾と、木製パネル壁、石床が続く内部意匠
天井の装飾円とシャンデリア、壁面の木パネルが並び、静かな重厚感が漂う

今回は、東京都庭園美術館をご紹介しましたが、いかがだったでしょうか。

アール・デコ様式でまとめられた、すっきりとした品のある邸宅でしたね。

今回ご紹介しきれなかったお部屋も、まだまだたくさん残っています。

部屋ごとに異なるランプや、ラジエーター・カバーのデザインを見比べるのも、大きな楽しみのひとつです。

ぜひ実際に足を運び、ご自身の目で、その魅力を確かめてみてください。


レトロさんぽさんのInstagram

今回ご紹介した東京都庭園美術館の投稿は、レトロさんぽさんのInstagramでもご覧いただけます。

https://www.instagram.com/p/C33YB6dPol5/?img_index=10

レトロさんぽさんのInstagramでは、ほかにも全国各地のレトロ建築を数多く紹介されていますので、ぜひあわせてご覧ください。

https://www.instagram.com/retro_sanpo_/

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レトロなものの魅力を発信する「レトロさんぽ」。着物や古着で年間300棟以上の建築を巡り、建築や純喫茶、ジュエリーなど時代を超えて残る美しさを紹介。『キュン!するレトロ建築』著者。
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