
床と建築の魅力を探し歩く「ラグリエ部活動」。今回の舞台は、愛知県岡崎市です。
歴史と文化が色濃く息づくこのまちで、私たちが出会ったのは、美しい建築意匠と、それを支える多彩な“床”の表情でした。
メンバーはおなじみの3人、hattori・Tina・Yama。6月のとある晴れの日に、岡崎へと出かけました。
洋館から歴史的建造物、街なかのカフェや商店街まで。建物ごとに異なる床の素材や模様、雰囲気を楽しみながら歩きました。
まるで“床の遠足”ともいえる一日。
レトロなタイル、格式あるフローリング、思いがけない場所で見つけた素敵な模様……。
今回も、見どころたっぷりのレポートをお届けします。
\デザインいろいろ!貼り付け簡単/
もくじ
旧本多忠次邸|優雅で洗練された洋館の床たち
愛知県岡崎市にある「旧本多忠次邸」は、洋館建築の魅力が随所に詰まった文化財建築です。
美しい外観や丁寧に設えられたインテリアに加え、室内に広がる多彩な床模様もまた、大きな見どころのひとつ。

今回はラグリエ部活動の一環として、邸宅内を実際にめぐりながら、印象的だった床のデザインや空間演出をご紹介します。
旧本多忠次邸の美意識を味わう
岡崎東公園の南端にひっそりと佇む、旧本多忠次邸。

昭和初期に建てられたこちらの洋館は、元貴族院議員の本多忠次氏が東京・田園調布に構えた私邸を、岡崎市が移築・復元した建築です。

左右非対称のファサードやアーチの意匠、玄関脇の車寄せなど、外観の時点ですでに上質な空気をまとっており、洋館好きでなくとも思わず足を止めたくなる美しさです。
内部には、当時の意匠がそのまま残された空間が広がり、各部屋ごとに異なる床のデザインが楽しめるのも大きな見どころです。

館内の案内図を見ると、その部屋数と構成の複雑さに驚かされます。
さっそく、個性豊かな床模様を追いながら、館内をめぐっていきましょう。
玄関・トイレ・日光室…床模様の豊かさ
建物の入口でまず目を引くのは、クラシカルなタイル模様が美しい玄関床。

モザイクタイルを敷き詰めた中に、さりげなくあしらわれた花のような模様が浮かび上がります。

タイルの色味も落ち着いていて、当時の丁寧な手仕事が感じられる空間です。

同じく1階にあるトイレの床も印象的。
玄関と同様に細やかなタイル貼りで、壁とのコントラストも美しく整えられており、展示空間としての保存状態の良さにも感心させられます。
玄関ホールから続く1階には、来客をもてなすための洋風空間が広がっています。

団らん室は、重厚な家具と柔らかなカーテン、シャンデリアのあかりが調和する、落ち着いた雰囲気の部屋。
中央には八角形のようなテーブルが置かれ、サロンのような空気感が漂います。

そして奥には、ダイニングとして使われていた食堂があります。

重厚なテーブルセットとシャンデリア、そしてステンドグラスの彩光が印象的で、格式の高さと居心地のよさが共存する空間でした。
1階日光室の床は、幾何学的なパターンの入ったグリーンタイル。

観葉植物と相性がよく、自然光を受けたときの表情の豊かさにも目を奪われました。
用途や空間にあわせて床材や模様が切り替えられており、邸宅全体の設計意図に深みを感じます。

洋の空間に続いて、2階には和の趣が感じられる和室も設けられていました。
落ち着いた色合いの壁と障子窓、そして床の間の掛け軸が、静謐な雰囲気を漂わせます。
タイルが映えるお風呂場
旧本多忠次邸には、1階と2階にそれぞれ趣の異なる浴室があり、どちらも見応えたっぷり。

1階湯殿の床には、小花柄のようなパターンがあしらわれたモザイクタイルが敷き詰められ、柔らかくも品のある印象です。

浴槽の縁にも同様の色調で柄が施されており、全体の統一感がとても美しく感じられました。
そして、浴室の窓に設けられたステンドグラス。
日差しが差し込むことで、淡い色彩が浴室全体に広がり、当時の優雅な暮らしぶりが想像されます。

2階の浴室は、さらに装飾性の高いデザイン。
床には赤とグレーのモザイクタイルが規則的に配され、壁にはやわらかなピンク系タイルが貼られていました。
こちらも窓際にステンドグラスがあり、花や魚などをモチーフにした図案が美しく描かれています。
バスルームという実用空間に、これほどの美的要素が凝縮されていることに驚きました。
美しいステンドグラスや照明
旧本多忠次邸を歩いて感じたのは、床に限らず、あらゆる意匠に美しさとこだわりが宿っているということ。

細部の意匠からも、当時の美意識の高さがうかがえます。
階段スペースには華やかなステンドグラスがはめ込まれ、照明器具や建具の一つひとつにも、丁寧な意匠と素材選びが見てとれます。
なかでも印象的だったのは、和室や廊下、洋室それぞれに合わせて設計された照明のデザイン。

細部まで考え抜かれた意匠が、空間の品格を高めています。
光の加減で表情が変わるステンドグラスや木の床も含めて、当時のモダンな感性と暮らしの美意識が随所に感じられました。


光を受けて、空間全体に幻想的な彩りを添えています。
この空間に流れる静かな時間と空気感は、実際に足を運んでこそ味わえるもの。ぜひ、岡崎の床めぐりに訪れた際には、立ち寄ってみてください。
タイルの床がとても素敵でした!洋風の外観に、和の要素がさりげなく溶け込んでいて、当時の暮らしの気配が感じられるような空間でした。
和洋折衷のお屋敷で、素敵な雰囲気でした。特にお風呂のレトロな色合いが印象的でしたね。
建物だけでなく調度品なども、すごくきれいに管理されていましたね!お庭も手入れが行き届いて、とても素敵でした。
旧額田郡公会堂|文化財の外観から感じる重厚な雰囲気
続いて向かったのは、岡崎市の市街地にひっそりと佇む、旧額田郡公会堂。
旧本多忠次邸とは違って、こちらは現在内部公開されておらず、外観のみの見学となりました。

明治時代末期に建てられたこの建物は、かつて地域の議会や集会などに使われていた公会堂で、現在は国の重要文化財に指定されています。

外観には、当時の洋風建築の意匠が色濃く残されており、特に玄関上部にあしらわれた半円状の破風装飾「セグメンタルペディメント」が目を引きます。
これは、三角形の破風(ペディメント)の代わりに、円弧状の優雅なアーチを配したもので、クラシカルな印象を与える建築装飾のひとつ。

今回は外観のみの見学となりましたが、窓越しに見える建具や装飾からも、当時の丁寧な意匠が伝わってきます。

建物の傷みは進んでおり、外壁の塗装も剥がれかけている箇所が多数見られました。とはいえ、こうして現地で見ると、可憐で優雅な佇まいにはやはり惹かれるものがあります。
現在は非公開で中に入ることはできませんが、外から眺めるだけでも、当時の建築の魅力を感じ取ることができました。
今後の保存や活用に期待しつつ、貴重な洋風建築の記録として訪れてよかったと感じたスポットでした。
外観を見ただけですが、雰囲気が素敵でした。中の様子も気になりました。
重要文化財で素晴らしい建物でしたが、壁などの修復がされていないのが少し残念でした。
せっかく可愛らしいデザインと色合いなので、ぜひ修復して素敵な建物としてよみがえらせてほしいですね。
松應寺と松應寺横丁|静けさに息づく路地と建築
次に向かったのは、岡崎の中心部に位置する「松應寺(しょうおうじ)」とその門前に広がる「松應寺横丁」。
この一帯には、歴史と再生の空気が入り混じる、独特の情緒ある景観が広がっています。

松應寺は、1560年に徳川家康が父・広忠の菩提を弔うために建立した浄土宗の古刹。
境内には季節ごとの花々が咲き、地元の人々にとっては心のよりどころのような存在です。

そんな松應寺の門前には、昭和の面影を残す「松應寺横丁」があります。
戦後に形成されたこの横丁は、かつての店舗兼住居をリノベーションした小さなお店が軒を連ねるエリア。木造建築が連なり、かつては飲み屋街としてにぎわった名残も感じられます。

この日は金曜日で、通りは比較的静かでしたが、ケーキ屋さんやカフェなどが開いていて、どこか懐かしさのある風景に心惹かれました。

週末には「花まちフェスタ」やマーケットイベントが開催され、多くの人でにぎわうとのこと。
静けさと賑わい、両方の表情をもつこの路地は、歩くだけで小さな発見があるような場所でした。次に訪れるときは、もう少しゆっくり歩いて、ひとつひとつのお店をのぞいてみたくなるような、そんな魅力が詰まっていました。
美味しそうなケーキ屋さんとかありましたね!どんなお店が隠れてるのかな?とわくわくする横丁です。
時間がゆっくり流れているような、懐かしい雰囲気にほっこりしました。
お寺の静けさと、昭和レトロな雰囲気の横丁をぐるぐる散策。カフェや雑貨店などがあって楽しかったです。
岡崎信用金庫資料館(旧岡崎銀行本店)|明治の銀行建築に残る床の記憶
続いて訪れたのは、「岡崎信用金庫資料館(旧岡崎銀行本店)」。
明治37年(1904年)に建築家・鈴木禎次の設計によって建てられたこの建物は、もともと「岡崎銀行本店」として使われていたもの。現在は無料で公開されており、館内では明治の銀行建築の魅力とともに、金融や建築にまつわる様々な展示を見ることができます。

赤レンガと白御影石のコントラストが美しい近代建築です。

歴史的価値と美観の両面で高く評価されています。
中はとても清潔感があり、磨かれた床や柱まわりの装飾など、細部まで丁寧に維持されているのが印象的。
常駐のスタッフの方が館内を案内してくださり、設計を手がけた鈴木禎次についてもわかりやすく教えてくださいました。
鈴木禎次は、明治から大正にかけて活躍した建築家で、赤煉瓦と石を組み合わせた重厚な洋風建築を多く残しました。特に愛知県内に作品が多く、これまでのラグリエ部活動でも訪れた建物の名前がいくつも登場して、思わずテンションが上がってしまいました。

全国に残る彼の設計作品や、著名人との交流にまつわる展示も見応えがあります。
2階は「お金」をテーマにした展示で、世界各国の貨幣や、日本の金融史に関する資料が並んでいます。

珍しいコインや紙幣がずらりと並び、大人も子どもも興味を引かれます。
中でも人気なのが、1億円や千両箱の重さを実際に体験できるコーナー。

思わず「重っ!」と声が出てしまうユニークな体験展示です。
また、館内には免震構造に関する展示もあり、建物そのものがしっかりと耐震補強されていることに驚かされました。

館内では免震技術についての詳しい展示も紹介されています。
レトロですてきな建物でしたね!
建物も展示も見応えあり。案内係の方がいろいろなことを丁寧に説明してくれて、印象に残っています。
建物もステキでしたが、案内係の方に話を聞けて良かったです。耐震工事もしっかりされているとのことでとても興味深いお話でした。
連尺通りとパスタ&カフェ Baku|街なかで出会った“あの床”
岡崎の中心市街地に位置する「連尺(れんしゃく)通り」は、昭和の雰囲気を色濃く残す商店街のひとつ。レトロな看板や建物が並び、ゆったりとした時間が流れるこの通りを歩いていると、ちょっとした旅気分を味わえます。

この日はとても暑く、連尺通りを散策しながら、そろそろランチ休憩を…ということで、Googleマップで見つけたパスタ屋さん「Baku」さんを目指しました。

すると、そのお店が入っているマンションの入口や階段に、なんともかわいらしい花柄のタイルが! 思いがけない出会いに、私たちのテンションは急上昇。

このタイルの床が『足の下のステキな床』著者・今井晶子さんのおすすめスポットだったことが、あとから判明。
岡崎出身の今井さんに事前に教えていただいていたにも関わらず、自分たちで見つけたと思って喜んでいた私たち…。少し悔しくもあり、嬉しくもあり。

店内は、近くのオフィスに勤める方々で賑わい、活気あふれる雰囲気。
あっさり系のパスタも充実していて、歩き疲れた体にやさしい味わいが嬉しい! 私たちはそろって和風パスタを選びました。

そして忘れてはいけないのが、Bakuさんの店内に広がるヘリンボーンの床。使い込まれた木の風合いが味わい深く、ランチタイムのひとときをさらに心地よくしてくれました。

パスタ、おいしかったです!
階段にもつながるレトロな床が印象的。Bakuさんのきのこ和風パスタ、ほっこりしていて美味しかったです。
まさか今井さんにおすすめされた床がここだったなんて!とってもかわいいレトロタイル床でした。また行く機会があったら、ぜひ鉄板ナポリタンも食べてみたいな~
Pasta & Cafe Baku|レトロな階段を上がった先にある人気の喫茶店
美味しいパスタと居心地のよさで人気の「Pasta & Cafe Baku」さん。
岡崎・康生通のサンライズ康生ビル2階にあり、昭和レトロなタイル床や階段も魅力のひとつです。
店名:Pasta & Cafe Baku
住所:〒444-0045 愛知県岡崎市康生通東2丁目37 サンライズ康生2F
電話番号:0564-24-8760
営業時間:11:00〜15:00 / 18:00〜21:00
定休日:日曜(訪問前に店舗へご確認ください)
KAGODA PARK|思いがけず立ち寄った公園で、心がほどけた時間
街歩きの途中、ふと目に留まったのが「籠田公園(KAGODA PARK)」でした。
整備された広場には美しい芝生が広がり、石造りのレトロな常夜灯がやさしく佇んでいます。ベンチや屋根付きのテーブルもあって、ちょっとひと休みにぴったり。

実はこの公園、2020年代にリニューアルされたばかり。岡崎の中心部に位置しながら、無料Wi-Fiも完備され、トイレもとても清潔。
平日の昼間でもベンチで読書をする方や、軽く散歩を楽しむ方の姿が見られ、落ち着きとにぎわいが程よく共存している印象です。

暑い日でしたが、屋根付きのテーブルに座れば快適。すぐそばにキッチンカーもあり、コーヒーや軽食も楽しめるとのこと。

こうした設備が整った気持ちのいい場所で、パソコンを開いて作業したくなるような、そんな時間の流れを感じました。

土日はきっと、もっと多くの人でにぎわうことでしょう。地域の人々の憩いの場として、長く愛されてきた理由がわかる気がします。
緑に囲まれて、ぼーっと過ごすのにぴったりな公園でした。ここでリモートワークもアリ!
トイレもきれいだし、Wi-Fiも使えて驚きました。
近所に住んでいる人がうらやましいですね。
施設名:籠田公園(KAGODA PARK)
住所:〒444-0041 愛知県岡崎市籠田町68
アクセス:名鉄「東岡崎駅」より徒歩約15分
駐車場:地下駐車場あり(210台収容)
Wi-Fi:無料Wi-Fi完備(OkazakiCity_Free_Wi-Fi / 利用時間 6:00〜21:00)
その他設備:屋根付きベンチ、芝生広場、キッチンカー、きれいなトイレ、多目的トイレ・授乳室あり
岡崎まちあるきの終着点|見つけた床と、訪れ損ねた床
岡崎の街には、古くから続く商店や昭和レトロな建物が多く残っていたため、もっとたくさん「すてきな床」に出会えるのでは…と期待していました。
ところが実際に歩いてみると、床が見えるお店は限られており、撮影できるような床との出会いは思いのほか少なめ。

それでも、松應寺横丁の一角や、ふと立ち寄った洋裁用品店の床、そして歩道のタイル模様など、目線を落とせば味わい深い床にいくつも出会えました。




歩くたびに発見がありました。久しぶりに岡崎を訪れましたが、次は岡崎城や八丁味噌の郷などにも足を運んでみたくなりました。
これまで岡崎をこんなにゆっくり歩いたことがなかったので、とても新鮮でした。観光にも力を入れている印象で、一日たっぷり楽しめました。
いろいろ充実した施設をめぐって盛りだくさんだったのに、駐車場代も見学料もかからず、ランチ代だけで済んじゃいましたね!
今回の散策では、事前にチェックしていた「岡崎シングルホテル」にまで足を運ぶのは断念。今井晶子さんが本で紹介していた“足の下のステキな床”を見に行きたかったのですが、あまりの暑さと時間的な制約で、断腸の思いであきらめました。
それでも一日を通して、岡崎という街の奥深さと歩く楽しさをしっかり満喫。次回こそ、未踏の場所へ…そんな気持ちを胸に、今回のまちあるきは締めくくりです。
オカザえもんが結構好きです。至るところでオカザえもんを発見!私の住んでいる街のマスコットキャラにも、あんな個性があったらいいのにな〜笑
前回の覚王山散策、今回の岡崎散策を通して、大正や昭和初期の建物を維持する大変さを感じました。こうした趣のある建物が、これからも大切に残されていくといいなと思います。
今度はどこの床さがしにいこうか、わくわくしますね!
ふと足元を見ると、そこにはこの街の記憶が刻まれていました。
華やかさとは違う、静かな美しさ。歩いたからこそ出会えた、そんな床との出会いが今回もたくさんありました。
次はどんな風景と、どんな床に会えるのか。楽しみは、まだまだ続きます。
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hattori

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